グランヴィル―19世紀フランス幻想版画 (鹿島茂コレクション)

グランヴィル―19世紀フランス幻想版画 (鹿島茂コレクション) の詳細

グランヴィルは19世紀前半のフランスの挿絵画家であり、著者・鹿島茂氏は著名な19世紀フランス文学者にしてフランスの稀覯本の収集家ある。ただし、話は19世紀フランスに限定されない。鹿島氏自身――グランヴィルは21世紀の絵画に圧倒的な影響を与え、《まったく新しい美術ジャンル》を切り拓くヒントとなるのではないかと予感し、そのコレクションをつづけてきた、といっているからだ。氏はこれまでも、『愛書狂』（角川春樹事務所）などを通じてグランヴィルの作品を紹介してきたが、今回、その所蔵品（挿絵入り初版本や版画）を一挙に公開してくれたのはうれしいかぎり。動物を人間に見立てて、あらゆる階層の市民を揶揄した『現代版変身譚』や『動物たちの私生活・公生活情景』、シュールレアリスティックな画集『もう一つの世界』、あるいは擬人化された花々が美しい『フルール・アニメ（生命を与えられた花々）』……など、めったにお目にかかれない絵に見入るのは贅沢な楽しみである。注文をつけるとすれば、収録図版の一つひとつに、短くてもいいから解説がほしかった。たとえばテーブルに向き合う動物顔の男女の版画に《食べごろのヒバリと牡牛》というタイトルしか付されていないが、「牡牛には大食漢や好色という意味があり、ヒバリには浮気女という意味がある」という一行解説があれば、もっと楽しめたことだろう。もっとも、おそらくは本国フランスでも刊行されていないはずの画集であるから、＜無いものねだり＞はやめておこう。この図録のもとになる「グランヴィル〜１９世紀フランス幻想版画」展は４月10日（2011年）まで東京の練馬区立美術館で開催されている。